スパコンとは何か

SC2012に向けての機内で金田先生の「スパコンとは何か」を読んだ。2009年の京、そして2011年のHPCIの事業仕分けに仕分け人として関わった東大情報基盤センタの金田先生によるスパコン解説本である。京はLLNLのSequoia (BG/Q)に抜かれてTOP500の2位になったが、今回のTOP500の目玉はORNLのTitan (Cray XK7)。TitanはOpteron + GPUというアーキテクチャで、ピーク性能は20PFLOPSと言われている。一般的にGPUの実効性能は高くないけど、NVIDIA Tesla K20xはDGEMMでも結構いい性能が出るらしいし、当然1位を狙ってくるはずだ。

さて、本書は以前取り上げた姫野さんと同様にスパコン啓蒙本なのだが、京のお膝元と仕分け人という立場の違いがある。私は金田先生がなぜ京にダメ出ししたのか、その背景にどんな問題提起があったのかしか興味がなかったのだが、結局、京の何が問題だったかというのは漠然としか書かれていない。同業者から相当叩かれたのではと想像するし、外野としてはその辺のことをぶちまけてもらいたかったのだが、やっぱりそれは無理らしい。京で一時的にLINPAC性能1位になっても、元々プロジェクトが掲げていた目標(1)スーパーコンピューター技術の伝承、(2)競争環境を用意すること、(3)スーパーコンピューター設置環境の整備、(4)人材育成の継続性は達成できないだろう。だから一度立ち止まって計画を立て直すべきということらしい。(2)に関して、米国では常に複数の国プロが走っているが、日本では地球シミュレータ、京のように単発である。これでは厳しいというのは同感。幸いTSUBAMEやT2Kがそれを補っている面はあるが。米国流のマッチングファンドは参考になるか? また、10PFLOPSのフラグシップを1台作るのではなく、1PFLOPSマシンを10台各大学・企業に作って競争する方が、よっぽど安上がりで業界の発展に貢献すると主張する。日本において中規模スパコンの層が薄いのは、計算機の低価格化と個々の研究者に割と潤沢な予算があることで、こまごました計算機ばかりが増えている事情があると言う。それらを数100TFLOPS規模の計算機に集約して、計算機センターの役割を再考するというのはありかも。でも、現実的には7大学以外の計算機センターはもう成り立たなくなっているのだろうか? HPCIにぶら下がるのでもいいだろうし、いっそEC2などのクラウドでいいのかも。どちらにしろ、ヨーロッパ(や韓国)のように、スパコン開発はあきらめ、コストパフォーマンスのよい計算機を買ってきて、自分たちはソフトウェアの開発に注力するというのは一つのモデルである。わからないことはないけど、ここでレールから降りると、2度と復活できないのではないだろうかという危惧を感じる。走りながら考える必要があるのではないか。

そのほか、教科書ではなかなか知ることができない政治的な事情も書かれていて、その点を面白く思う人がいるかもしれない。7大学計算機センターの生い立ちとか、政府調達でスパコンの定義が1.5TFLOPSに定められている理由とか。スパコンを持っている大学は限られているし、コミュニティの近くにいないとこの辺の事情は(調べようと思えば調べられると思うが)わからない、というか、そもそも興味も持たないか。

話は変わるが金田先生には専門の円周率計算を中心に計算機の歴史について語る本を書いてもらいたい。HITAC 5020、SR2201、SR8000とか日立中心になりそうだけど。

あぁ、時差ぼけのぼ〜っとした頭で文章がまとまらないが、この辺で。

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(追記:2012-11-12)最新のTOP500が発表になり、Titanが17.59PFLOPS(ピークは27PFLOPS強)で1位になった。これで京は3位。噂によると今回はGPUしか使ってないらしいし、実行時間も1時間未満だったとか。ノミネートにギリギリ間に合ったという感じなのかな。

スパコンとは何か (ウェッジ選書46)

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