システムソフトウェア研究の将来

本年最後のエントリはちょっと無理してシステムソフトウェア研究の将来に思いを馳せてみたい。(おぉ、まだ酒は入っていないw)

去る12月6〜7日にコンピュータシステムシンポジウム(ComSys)2012が開催された。加藤和彦(筑波大)教授による基調講演「仮想化とシステムソフトウェア研究」では、MulticsUnixMach、そして同教授が関わったDSR/Planet、遠隔RPC、BitVisorなどの研究を振り返り、システムソフトウェア研究が目指した理想と社会が求めた現実とのギャップ分析が示され、非常に面白かった。イノベーションの源泉がシステムソフトウェアよりも上位層に移っているのは確かではあるが、システムソフトウェア研究者としては、例えばセキュリティなど、自分の研究と社会との関係をどう位置付けるかが重要と改めて感じた。また、質疑応答では、日本は特にインフラが見えにくいという問題があり、若い人にシステムソフトウェア研究への興味を喚起するにはその使命感をアピールすることが重要ではという指摘もあった。

情報処理学会のOS研究会などの動向を見ると、この分野が萎縮しているように感じることがある。しかし、海外に目を転じると、システムソフトウェア系の会議の参加者は年々増加しているそうである。GoogleMicrosoftを始めとする巨大インフラを持つIT企業の存在感が大きいし、研究の出口が見えている感がある。研究としての深みがないとか批判はあるだろうが、人は集まるし、高い質も保てているのではないだろうか。一方、日本でも、カーネルVM探検隊やインフラエンジニアの勉強会は非常に盛んなところを見ると、まだまだ捨てたモノじゃないなと感じる。このような草の根というかボトムアップの活動と学会活動をうまく結びつけられないかなと、個人的には思っているのだが。。。

確かにシステムソフトウェアは地味だし、成果が出るまで時間がかかる。でも、コンピュータシステムが成立する上で必要不可欠なのある。まさに、「誇り高き3K」仕事。

分野が違えばこの手の縁の下の力持ち系の仕事の啓蒙活動は「プロジェクトX」や「メタルカラーの時代」など、いろいろなメディアでまとめられている。今ちょうど「メタルカラーの時代」を読んでいるのだが、モノを作る、社会的基盤を築く、社会や自然のシステム、メカニズムを探り創造する人々のインタビューが満載である。この本が出たのは1993年で、IT系の話題は磁気デバイス通信衛星や海底ケーブルなどが中心で、しかもインターネットはもう存在するが、本書には「イ」の時も出てこない。ソフトウェアの話はTRONだけ。奇しくも坂村健先生は「TRONは21世紀のインフラ作り」と言っている。さて、90年代と比較しても、ソフトウェアの社会インフラとしての重要性は比べものにならないほど増大している。巨大土木事業と同じように、子供の世代にこのインフラは我々が作ったんだ、支えているんだと胸を張って言えるようになりたいではないか。

ComSysの懇親会で、プログラミング言語ではかなりいろいろな可能性にトライして失敗するという歴史を経てきたが、OSにはまだその可能性を探究し切れていないのではないかという話が出た。私ぐらいの歳になると、「OSとはかくあるべし」という固定概念で思考が固まってしまう。若い人にはその既成概念を打ち破って欲しいな(というのは無茶ぶり?)。来年はOS研究の最高峰、ACM SOSPの開催年である。「What is good systems research?」を読みながら傾向対策でもしてみたら? まぁ、学会の傾向と対策からイノベーションは生まれないか。

「メタルカラー」の時代

「メタルカラー」の時代